2008年10月12日、世界的にも権威のある科学誌ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genetics)電子版に、男性の「はげ」の原因となる2種類の遺伝的変異を特定したとする研究結果が掲載されました。なんでも、この変異が遺伝子にある場合は、はげになるリスクが7倍にも高まるそうです。
またそれまでの研究でも男性の禿げの原因の80%は遺伝によるものであることが分かっていました。
ただ、禿げ(はげ)は遺伝する、といっても実際に遺伝するのは”ハゲやすい体質”のようです。ですから親父もハゲ、祖父もハゲ、だから自分も絶対にハゲるんだ・・・と悲観しすぎたり悩みすぎたりする必要はありません。
なぜ禿げは遺伝するといわれるのか、その仕組みを遺伝子から説明しましょう。そしてその対策・予防法を紹介したいと思います。
遺伝するタイプの禿げ
禿げにもいろいろな種類がありますが、中でも遺伝するのは男性型脱毛症といわれるタイプのものです。英語では「andorogenetic alopecia = AGA」といわれます。
男性型脱毛症の特徴としては、こめかみの上から抜け毛が始まり、髪の生え際が後退していきます。そしていわゆる「M字型」の禿げになります。またつむじ近くの髪の毛が細くなるため薄毛になったり、頭頂がツルツルになったりします。サザエさんの波平や、ドラゴンボールのべジータはこの男性型脱毛症と思われます。
「男性型」とあるので女性には関係ないかというとそうではなくて、女の人の場合は「女性男性型脱毛症」(Female AGA)と呼ばれるそうです。ただし女性の場合は、生え際のラインは変わらずに、全体的に髪が細く、薄毛になります。
男性型脱毛症の起こる仕組み
男性型脱毛症は”男性ホルモン”、”5αリダクターゼ”という酵素、そして”レセプター”の3つが関係して起こります。
男性ホルモンには、テストステロンやジヒドロテストステロン (DHT)、デヒドロエピアンドロステロン (DHEA)などいくつもの種類があります。いずれも主な作用としては、男性の第二次性徴を促進させるほか、男性型脱毛症いわゆる禿げを引き起こします。
5αリダクターゼは、テストステロンをより強力な男性ホルモンである「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換する働きがある酵素です。
このジヒドロテストステロンが、毛根の近くにあるレセプター(受容器)に結びつくと発毛がおさえられてしまう仕組みです。
ですから
- 男性ホルモンの分泌がさかんで
- 5αリダクターゼ酵素の働きが活発な上
- 毛根周辺に男性ホルモンをとらえるレセプターがたくさんあると
禿げになりやすい、ということです。
禿げの遺伝子
ハゲの3要素のうち、5αリダクターゼの分泌量と、レセプターの数は遺伝するといわれています。
5αリダクターゼは両親からの遺伝で決まり、レセプターの数は母親からの遺伝で決まります。
父親が禿げていると子供も禿げやすくなるのは5αリダクターゼの遺伝です。5αリダクターゼは3分の2の確率で遺伝しますので、父親が禿げていると子供3人中2人は5αリダクターゼの分泌が多く生まれてくる計算です。
母方のおじいさんが禿げていると孫がはげるのはレセプターの数の遺伝です。レセプターの数は2分の1の確率で遺伝します。つまり、おじいさんが禿げていると孫の2人に1人はレセプターの数が多く生まれてくることになります。
遺伝した禿げは予防・対策できないの?
このように男性型脱毛症は遺伝するものですが、あくまで遺伝するのは”禿げやすい体質”であることを忘れないでください。たとえ体質的にはげやすくても、生活習慣などによって実際にハゲになるかどうかは変わってきます。
第二次大戦時にはストレスや栄養不足などで禿げが異常に増えたことがあったと言われることからも、生活習慣が非常に大切なことが分かります。生活習慣は皮脂の臭いやアレルギーの原因にもなります。
禿げは男性ホルモンが原因となって起こりますので、男性ホルモンを抑えるような生活や食事をすることが大切です。具体的には、肉を少なくして野菜中心の食生活にしたり、夜更かしをせずに早めに寝ることなどです。なお夜更かしは、髪の成長も阻害します。ストレスをためこまないようにすることも重要でしょう。
どうしても不安な人は、プロペシアという5αリダクターゼの働きをおさえる薬もあります。医師の処方箋が必要なので専門の病院を受診してみましょう。ただし、この薬は髪の量を増やしてハゲを治す薬ではなく、今の現状を守る薬です。薄毛になってからいっても改善効果は期待できませんのでご注意を。なおこの薬は、女性は服用することができません。